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対談・イベントレポート

あしたの健保組合を考える大会 第一部 講演

あしたの健保組合を考える大会 第一部 講演

あしたの健保組合を考える大会 PART2
医療費適正化に向けて

健保連大阪連合会主催の「医療費適正化に向けて あしたの健保組合を考える大会 PART2」が3月28日、ホテルモントレ大阪で開催された。国民皆保険制度を維持するために健保連本部の取り組みと連動して、医療保険制度改革、とりわけ高齢者医療の負担構造の改革・医療費の適正化に向けた施策の強化などを広く世論に訴えるとともに、健保組合の意思結集を図り、大阪選出の国会議員への要請活動を積極的に展開する趣旨で実施した。

大会前半では、前参議院議員・元厚生労働大臣政務官 梅村聡先生による「医療費適正化への提言」と題した講演を実施。先進国の中で最も使い勝手のよい国民皆保険制度を持つ日本。その最大の弱点は「財源問題」であり、この制度を守るには医療費適正化が不可避であることを7つの論点から講演。その鋭い指摘には、場内でもうなずかれる姿が多く見られた。

大会後半では、衆議院議員の長尾敬氏(自民党)、松浪健太氏(おおさか維新の会)、健保連大阪連合会より大阪府電設工業健康保険組合常務理事の喜多眞生氏、パナソニック健康保険組合健康開発センター所長阪本善邦氏に、基調講演を行なった梅村氏を加え、トークセッションを実施。先進国共通の課題である医療費の膨張をいかに抑えるか。地域包括ケアといった体制づくりや健保組合加入者一人ひとりの医療費の節減の方策など、さまざまな見解や意見が活発に示された。

閉会の挨拶では、健康保険組合連合会の白川修二副会長が「医療費適正化策を推進するためには、国民に医療保険の実態について、正しい情報を知ってもらう必要がある。そのための情報発信をわれわれは続けていかなければならない。また、健保組合は自主自立の運営で国民皆保険制度を下支えしている。われわれは健保組合に公費を入れろといっているのではなく、増大する高齢者医療費に公費を投入してほしいと言っているのである。高齢者医療に対する現役世代の負担を軽減してもらえば、健保組合は保険者機能の発揮にむけて一層努力できる。」と述べ、参加者の士気を高め大会を締めくくった。

【講演】 医療費適正化に向けた課題の要点整理

 本日は、医療費適正化に向けた取り組みに対する課題をお話させていただきます。


前参議院議員・元厚生労働大臣政務官
日本内科学会認定内科医 梅村 聡 氏

 現在私は、大阪大学に籍をおいて、医療経済学を教えております。医療経済学とは、医療上の新しい技術をいくらで国民に提示するのか、そして保険適用で提供する場合はいくらに設定するのかを考える学問です。

 これまでの日本には、これらを算出する方程式がありませんでした。あまり安く設定すると、海外からビジネスの観点で圧力がかかる。高すぎると費用を負担する側の保険者から待ったがかかる。コストから積み上げて償却を考える、レセプトをチェックしてどれくらいの医療費の節約になるのか、納得できる理論値を研究しています。

 もう1つは、内科の診療所を開設しました。恐らく内科では初めて夜10時まで診療しています。なぜ10時までやるのか。働いている人にとって朝から長蛇の列の病院や診療所に行こうとしても、早退できない、途中で仕事も抜けられないとなると結局行くことができない。いくら健康増進に取り組んでも、それをフォローするには今の診療時間設定では難しい。医療環境に一番恵まれていないのは、働く世代ではないかと考えたからです。

 国民皆保険制度は、先進国では揃いつつあります。その中でも、なぜ日本の制度が世界に冠たる制度なのか。それは患者さんと医療側の合意があればなんでもできる、双方にとって使い勝手がいいということに尽きると思います。

 ただ、こんな素晴らしい日本の医療保険制度の一番の弱点は財源問題です。これさえ解消できれば、あとは変えない方がいい。医療の質を担保した上で、放漫経営に陥らないようにコントロールしていく。医療適正化は不可避の課題です。課題へのアプローチを7つの論点に分けてお伝えしていきたいと思います。

 まず1つめは、診療報酬改定率の問題があげられます。財務大臣と厚生労働大臣の折衝で決定されるのですが、なぜ省庁同士の折衝のみで決められるのか。医療費の25%は国の公費、10%は都道府県の財源ですので、約3分の1にあたる十数兆円分をいくらにするか折衝しているつもりでしょうけれど、この数字は保険料や診療報酬に影響してくる話です。これだけ大きい税金をここまで大量に使うことを、最終的に予算委員会や議会の承認なしに決めることは問題です。

 2つめは、医療費適正化の天王山と言われる病床再編の問題。現在、2014年に施行された医療介護総合確保推進法によって、各都道府県でベッド数計画を見直すことになり、計画案を作成しているところです。需要と供給をはかり、実情にあわせて医療費を適正化していこうという試みは大切です。

 ただ、100万床あるベッドを60万床に減らすのであれば分かりますが、今回の計画は100万床のまま、カテゴリー分けを行うだけです。診療報酬に頼っている民間病院は収益性を第一に考えるでしょうから、医療費の削減につながるに計画を実行させることは難しい。やはり実現に向けては、政策で決めていく必要があります。

 3つめは、地域包括ケアシステム、つまり在宅ケアをベースに、いままでの病院を中心とする医療介護を、地域中学校の単位にして、30分程度で駆けつけることのできる範囲で医療・福祉・介護の提供体制を構築し、生活を支える医療に変えていく。

 こうした仕組みを根付かせるには、受け皿づくりに加えてコーディネートできる人材が必要です。例えば、病院に入院している方が、退院後、家へ帰るのか、老健施設に入所するのか、病院でリハビリに取り組むのかをアドバイスできる人材の確保やこれまで医療機関で働いていた人の登用も考えていくべきです。

 4つめは、「かかりつけ医」制度をどうするか。現在、日本医師会を中心にキャンペーンを実施していますが、なかなか徹底されずにいます。これは、医師へのフリーアクセスを制限するかどうかがテーマだと思います。

 かかりつけ医を拠点にして次の専門医・病院にかかる制度にする。例えば大きな病院に紹介状なしにかかると料金がかかる。こうしたフリーアクセスへの制限は、実際の患者さんへのアンケートでも賛成が60%を超えており、なんとかしようという気運はあります。

 ただ一方で、ネット社会の発達を考えると、やはり自分の症状に応じた医師をネットで探してそこへ行く。その前にかかりつけ医のところへ行くスタイルはなじまないように思います。また、自由開業医の数がそれぞれの地域にとって適切な数なのかも大きな問題です。結局、パイの奪い合いになって医療費のかさ上げとなり、保険を使うことにつながるからです。

 5つめは、ジェネリック医薬品の問題があげられます。普及目標が数量ベースで80%に引き上げられましたが、国民の側からジェネリックへの信頼度が上がらないと実現は難しい。値段設定も先発品に対する集中度で価格が決定されており、質に対する評価やどこまできちんとした取り組みの製品なのか、国民に分かる指針がないことが懸念につながっています。

 6つめは、国民や患者が知りたい診療メニュー料金体系をどう考えるか。診療明細書の発行は義務づけられましたが、医療を受ける前の説明をどうするか。本当にコスト意識を醸成するのであれば、大体これくらいの医療でこれくらいの価格であるということを示すのは当たり前ではないでしょうか。

 7つめに、重複受診防止やより一層の健康価値創造のため、医療情報を活かす方法を検討する必要があります。マイナンバーに紐づけた新たなナンバーで医療情報に結びつけることも検討中です。また、各企業で持たれている社員の方がたの健康診断などの情報と医療機関のレセプト情報を有効活用できないか。個人情報が絡みますが、国民の健康価値をあげるためには、一考の価値があると思います。

 最後に、個人的なことになりますが終末期医療と療養費制度の問題に取り組んでいきたいと思います。終末期医療については、重症化した方が儲かるという医療の問題と、患者が尊厳死をきちんと選択できる体系に取り組んでいきたいと考えています。

 ここまでお伝えした内容を踏まえて、後半のトークセッションに移りたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

―あしたの健保組合を考える大会 PART2―
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