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対談・イベントレポート

イベントレポート/あしたの健康を考えるセミナー

イベントレポート

あしたの健康を考えるセミナー

健保連静岡連合会主催の「あしたの健康を考えるセミナー」が10月10日、静岡市のしずぎんホールユーフォニアで開催された。セミナー冒頭、主催者を代表して静岡連合会の露木豊会長(静岡県東部機械工業健保組合理事長)があいさつし、増加の一途をたどる高齢者医療費について懸念を示し、将来にわたって国民皆保険制度や介護保険制度を守るためには、高齢者医療費の負担構造改革の実現や個々人による健康づくりに向けた取り組みの必要性を訴えた。また、自由民主党の上川陽子衆議院議員と国際医療福祉大学大学院の和田勝教授を招いたトークセッションでは、「健康を守ろう・元気を創ろう」の演題のもと、両氏から「健康寿命」や「健康保険」についての見解が示された。

増え続ける高齢者医療費に歯止めをかけるために必要なこと

国際医療福祉大学大学院特任教授和田 勝1969年、厚生省入省。厚生省薬務局経済課長、保険局企画課長、大臣官房審議官などを歴任し、2001年より国際医療福祉大学大学院教授。現在、特任教授、順天堂大学大学院客員教授。
衆議院議員上川 陽子1953年(昭和28年)静岡市生まれ。白百合幼稚園、横内小学校、静岡雙葉学園、東京大学(国際関係論)。三菱総合研究所研究員を経てハーバード大学大学院へ留学(政治行政学修士)。
米国上院議員の政策立案スタッフを務め、大統領選挙運動にも参加。帰国後、政策コンサルティング会社設立。

──現在、日本は世界でも稀にみるスピードで、超高齢社会になりつつあると言われています。具体的には何が課題なのでしょうか。
また、この局面をどう乗り越えていくのかは、世界も注目するところです。ご意見をお聞かせください。

和田

戦前そして戦後まもない頃、日本人の平均寿命は50歳程度でした。それが今は、世界一の長寿国となり、男性の平均寿命は80歳、女性は87歳です。日本の財産と言っても過言ではない国民皆保険制度がスタートした1961年当時、日本における65歳以上の人口は全人口の6~7%で、現在は25%、75歳以上に関しては11~12%となっています。しかしながら、自立した生活が可能な期間とされる健康寿命と、平均寿命との間には10年ほどの差があるのが現状です。これは、医療費や介護給付費の増大を意味しており、これが課題となっているわけです。そうしたなか、国民の関心事もまた「健康、医療、介護」となっており、超高齢社会における課題をどのようにクリアしていくかは、日本全体の問題であることは言うまでもありません。国民の声に耳を傾け、施策を講じてくださる政治家の皆さんにも、ご協力いただきたい課題だと考えています。

上川

2025年に、いわゆる団塊の世代の皆さんが75歳以上になります。安倍政権が発表した日本再興戦略では、2020年までに国民の健康寿命を1歳以上延伸することを目標とし掲げ、具体的には「予防」と「健康管理」を大きな柱としています。国民一人ひとりが自分の健康について考え、努力していくことが大切です。しかし、それを1人で継続していくことは難しいですから、家族や地域の皆さんと共に努力をしていただくのが、最善であると考えています。そして、そうした努力をしている方々を奨励することも視野に入れ、来年度の政府予算には、健康へのインセンティブづくりの予算枠を組み込ませたいと考えております。

──健康寿命を延ばすために、個人や地域、あるいは健保組合のような組織として、具体的にどのようなことをしていくことが望ましいとお考えですか。

上川

実は、議員になって早々に、「持続可能な社会保障制度の確立に向けて、国民一人ひとりが地域のつながりのなかで健康寿命を全うすることを推進する議員連盟」というもの立ち上げました。
長い名称なので(笑)、「健康(Health)」と「コミュニティ(Community)」の頭文字をとって、「H&C議連」という愛称で呼んでいます。H&C議連は、自分の健康を家族や地域の人たちと分かち合いながら、一緒に運動をしたり、おいしいものを食べながら交流して脳を活性化させ、健康づくりを普段の暮らしに根付かせることが大事だと考えています。H&C議連で視察した地域の一つ、東京都稲城市では、65歳以上の方が介護施設などでボランティアをすると、ポイントが付与される仕組みをつくっていて、貯まったポイントを使うことができるようにしています。体を動かし、人と交流をすることで、健康づくりに取り組んでいる素晴らしい事例です。

和田

一人ひとりがバランスの良い食事、適度な運動、休養を心がけていくことは、健康寿命を延ばす基本だと思います。平均寿命が延びた背景に食生活の改善、公衆衛生の向上などがありますが、やはり健康保険制度が水や空気と同じように生活に溶け込んできたおかげであることは否めません。世界に誇れるこの制度を守るためにも、国民全体で努力していく必要があります。

──静岡県は、健康寿命が女性1位、男性2位となっています。静岡県出身の上川先生は、この結果をどのように捉えていらっしゃいますか。

上川

静岡県民の緑茶の消費量は、全国平均の約3倍ですから、もしかすると緑茶や、名産品であるみかんの効果はあるのかもしれません。ただ、静岡県民1万4000人を対象として、1999年度から行ってきた健康に関する追跡調査によれば、食事・運動・休養に加えて、社会参加が健康づくりに大きく影響していることが分かっています。日常生活において、特になにも意識せずに暮らしている人の死亡率を100とした場合、食事と運動を意識している人の死亡率は3割減となっています。さらに、意識的に社会参加をしている人に関しては、5割減になるという結果が出ています。ですから、健康づくりを考えるときには、食事・運動・休養に加えて、社会参加も意識していただきたいと思います。

──健康を推進するうえで、健保組合の存在は欠かせません。各健保組合でさまざまな努力をされているようですね。

上川

健康づくりに向けた普段からの努力は、健康診断の結果に明確に出るものです。健康の状態が数値で見えれば、それを励みに頑張れますから、健康診断の受診は健康づくりに向けた基本だといえます。そういう意味で、自動車メーカーのスズキ健保組合が社員とその家族に対して、1995年から健康診断を義務化、また1997年からは歯科検診も義務化したことは、とても素晴らしいことだと思います。その結果、他の自動車メーカーに比べ、1人あたりの年間医療費が2割削減となっています。健康診断の受診率を上げることで、社員の健康が守られ、ひいては医療費の削減にもつながるわけです。したがって、こうした努力をしている企業に対して、国がインセンティブを与えることも、国民の健康に対する意識を高めるためには有効であると考えています。

──定期的に健康診断を受診したり、必要に応じて治療を受けるためにも、やはり健康保険の存在は重要です。しかし、今のままでは健康保険の未来が危ないと言われています。具体的には何がどう危ないのでしょうか。また、何か打開策はあるのでしょうか。

和田

現在、日本国民が1年間で使う医療費は約40兆円にも上ります。そして、これからも高齢者人口の増加に伴い、高齢者の医療費が増え続け、年間の医療費がさらに膨れることは明らかです。高齢者の皆さんは、75歳以上の方は後期高齢者医療制度、65歳~74歳の方はその多くが国保に加入していますが、単独では財政が成り立たないため、現役世代の皆さんが加入している健康保険組合や協会けんぽなどからの支援金でやりくりをしています。現役世代が納めている健康保険料の約5割が高齢者医療費の支援に使われており、もはや現役世代で支える限界にきています。国民全体で支えあうという考え方自体は素晴らしいことなのですが、限界を超えると、現役世代の生活も立ち行かなくなり、支える側も一緒に倒れてしまいかねません。日本の健康保険は今、まさにギリギリのところにあるといえます。したがって、国民皆保険を持続させていくためには、高齢者医療制度改革の実現が必要です。高齢者医療費の負担構造を見直し、高齢者医療費に税金を投入することで、国民皆保険の未来が守られ、現役世代の負担も軽減するということです。

上川

来年は消費税が8%から10%に引き上げられる予定です。こうしたなか、国民の皆さんにお話を伺うと、物価が上がっていることもあり、実質的には「所得が下がっている」との声が多く聞かれます。そこに消費税アップとなると、国民の皆さんから賛同が得づらいのが事実です。しかし、今の社会保障制度は、国民皆保険制度が維持されてきたからこそ存在しているものなのです。こうした現状において、いかに折り合いをつけていくかが、今、問われているところだと思います。

和田

高齢者の多くが、現在の健康保険制度を高く評価しています。そして、現行の制度を維持するためであれば、それなりの負担をしてもいいと考えている高齢者も数多くいます。健康保険の未来を守るためにも、皆さん一人ひとりに健康づくりに向けた努力をしていただきたいと思います。日本人が年間で外来へかかる回数は、欧米に比べて2~5倍といわれています。本当に治療が必要なケースを除いて、無駄な通院をやめることもまた、現行の制度を維持するためには有効です。国民の健康に対する意識を高めるためには、健康保険組合の皆さんによる努力も必要になると考えてます。

──平均寿命と健康寿命の差を縮め、医療費を削減し、世界に誇れる国民皆保険を守っていくためには、国民一人ひとりが定期的に健康診断を受けて、予防と健康管理をしていくことが大切だと分かりました。では最後に、健康保険組合連合会の白川修二副会長にあいさつをお願いします。


白川 修二 副会長

私ども、健康保険組合の使命は2つ。
1つ目は、その名前のとおり「健康」であり、加入者の皆さんの「健康」を下支えすることです。2つ目は「保険」で、国民皆保険制度を維持することは当然のことながら、超高齢社会を迎えるにあたり、素晴らしい皆保険制度を次世代につないでいくことが、私どもの2つ目の使命です。この2つの使命を果たすべく私どもも努力していきますので、どうか皆さんもご自身の健康と併せて、皆保険制度をいかに守っていくのかをお考えいただき、ご支援いただきたくお願い申し上げます。また、上川先生、和田先生からは貴重なご意見を賜り、心より感謝申し上げます。それでは、皆様とご家族の健康を祈念して、本日のセミナーを終了とさせていただきます。ありがとうございました。

国際医療福祉大学大学院特任教授 和田 勝
1969年、厚生省入省。厚生省薬務局経済課長、保険局企画課長、大臣官房審議官などを歴任し、2001年より国際医療福祉大学大学院教授。現在、特任教授、順天堂大学大学院客員教授。

衆議院議員 上川 陽子
1953年(昭和28年)静岡市生まれ。白百合幼稚園、横内小学校、静岡雙葉学園、東京大学(国際関係論)。三菱総合研究所研究員を経てハーバード大学大学院へ留学(政治行政学修士)。米国上院議員の政策立案スタッフを務め、大統領選挙運動にも参加。帰国後、政策コンサルティング会社設立。

健保連の考え方
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